※2024年8月30日に投稿された記事の再投稿版です。
夏が終わる。
上京時、ただ家を飛び出すために入学した大学も、夏が終わる頃には中退の覚悟ができていた。自分が真っ当に生きる道はあり得ないと踏ん切りがついたとも言えるし、単純にそれまで通りあと先考えずサボっただけとも言える。
大学の夏休みは少し長く、一ヶ月半くらいありました。これを読んでいる人の中にも、今まさに人生で最も自由な休憩時間を、モラトリアムをお過ごしかもしれません。どうやら人はそのあり余る10代後半の暇が、若さのエネルギーが何かへ向かう大きなチャンスでもあるらしい。
7年くらい前。僕はその時すでに新卒の年齢でしたが、一度目の大学の夏を乗り切ることなく中退して無職と化しており、住まわせてもらったシェアハウスへ僅かな印税を家賃に変換して収めながら、日々ネットと本やアニメだけを楽しみとしておりました。もはや夏休みどころでない長い長いモラトリアム。
無限の時間の中、バーチャルYoutuberが登場し、発展する瞬間を観測していた。なぜ逸早くキズナアイを見つけ、それを記事にしたりできたかと言うと、誰よりも暇だったらからだ。流れで再生数が200時代のねこますさんも見つけ、「男性でもアバターを使ったバーチャル上なら美少女キャラクターになれる」ことをブログに書いた。新時代の幕開けに記事は一気に拡散し、Vを商売にしようと目論むたくさんの企業たちから連絡がきた。「知恵を貸して欲しい」と。無職が大企業たちから頼られる逆転ホームランだった。
この時期で具体的に僕が何をしたかは割愛しますが、かなり頑張った。なんなら生まれてから初のアルバイトレベルでない「仕事」や「労働」をした反応で、適応障害となって二週間誰とも喋らずネットも開けないくらいの地獄を味わうこととなる。それくらい時代に貢献したつもりですが、黎明期の状況を種明かしするのは面白くないのでまだまだ胸に秘めていく。いちおう、僕が急にインディーゲームの企画製作やそれに伴う信頼関係に成功した理由は、裏で各バーチャルYouTuber関連の企業との仕事をした実績を、関係者の大人たちが評価してくれていたからですね。ありがたい。
なんにせよ、それだけインターネットの動向を追えたのは、ただ暇なだけだったかつ、若さのエネルギーが(二十歳を少し過ぎていたとはいえ)妙に溢れていたからに他ならない。実感したのは、企業のお偉いさんに「なぜこんな速度と予算を注ぎ込んでまでVの企画を立てようとするんですか?」と興味本位で訊いてみた時。特に「夏までには絶対にリリースする」と息巻いている理由を知りたかった。そりゃ速ければはやいほどいいが、なぜここまで夏を恐れているのか。
お偉いさんは「これだけ注目されたV界隈には必ず大勢の大学生たちが乗り込んでくる。大半は有象無象だが、彼らの一部は夏休みに覚醒する。自分で暮らすようになって初めて手にした自由な時間やバイト代を、企業では採算が取れないしょうもないことに費やす。企業で不可能なしょうもない面白さは無敵で、つまり絶対に倒せない時間と熱意がオーバーヒートした最強の暇な大学生が参入すると大人は負ける」と語った。
目から鱗。
この人は内部からニコニコ動画の全盛期を経験していたこともあり、「暇な若者の情熱とパワー」には大人が太刀打ちできない、制御もできないことを知っていた。だから、その「若さの一瞬の輝きを武器にした最強のやつ」が誕生するまえに、企業のスピードを活かした大型のキャラクターを登場させ、先行者として地盤を固めておきたいのだと言う。そこには無職の僕がはじめて目にする「エリートサラリーマンの本気」があった。そして、そのような理解者たちは、奇跡的に成功の可能性を秘めていた、「とにかく暇だったので現時点のバーチャルYouTuber界をすべて観測していた存在」、にゃるら青年を重要パーツとして手厚く会議室へ連行したのです。深夜のシェアハウスにタクシーで役員がやってきたのだから、思えばマジの「連行」だった。
結果として、実際に夏を皮切りに配信での一発逆転を夢見た多くの若者たちが参入。大人がガチガチに台本を書いたぎこちないキャラクターたちは勝手に消滅し、がむしゃらに流行のゲームやミームを乗り継ぐ身軽さやSNSを読み取る力を持った元暇人たちが勝利した。その様は現YouTubeを開けばすぐに納得することでしょう。企業がやる気ある素人を拾って好きにさせる形式が最適解なのですね。
やる気ある素人も何らかの実績があるわけで、それは「どうせ時間があるのだから何かをやってみよう」と、MAD動画を投稿しまくったり、変な企画記事やツイートに挑戦してみたり、エネルギーの余剰が生んだ奇跡を纏っているのだ。そして、採算度外視な熱量はめちゃくちゃ面白い。この世の理を外れた勢いには誰ひとり勝てない。
なんにせよ今年も夏は終わる。
休み期間、ひたすらYouTubeやアニメや漫画に明け暮れた者も少なくないでしょう。その謎の時間が実は一番の近道になるかもしれない。ならないかもしれない。未来の分岐点となる経験は「これは将来のためになりますよ」なんて分かりやすい顔をしていない。僕がキズナアイの動画を一から眺め、海外のアーリーアダプターなオタクたち含めた独特の空気感に笑っていた時、まさかその肌感覚を大企業が喉から手が出るほど欲しがるなんて想像もしていなかったのですから。
大人になればなるほど、無限の力を使ったエネルギーは消えていく。それはサブカルクソ野郎としての死を意味する。とにかく僕らは暇でなければならない。深夜に友達が泣いて電話をかけてきた時、明日を考えずに朝まで雑談してやれないなら生きている価値も無い。
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