時代を先取ったヒロイン「須磨寺雪緒」の話

時代を先取ったヒロイン「須磨寺雪緒」の話

書いた人 : nyalra nyalra

※本記事は10年以上前に投稿された記事の再投稿版です。


 「死」について、インターネットでは様々な議論が交わされています。

 そこで今回は、美少女ゲームのヒロインの中でも特に「死」へのテーマ性が強い「須磨寺雪緒」の話をします。


 「天使のいない12月」という美少女ゲームがありまして、天下のLeafから発売された作美少女ゲームなのですが、まだいわゆるメンヘラという概念が膾炙していない時期から、リスカ、援交、無自覚浮気キャラなど、時代を先取りした属性をヒロインとして並べた意欲作です。 

 今回は、過激なヒロインたちの中から、特に時代を先取ったヒロイン、「須磨寺雪緒」さんルートの話をしましょう。


・須磨寺雪緒


 須磨寺さんとの出会いは、夕暮れ時の屋上から始まります。

 主人公はいつも授業をサボっては屋上に侵入して喫煙しており、この日も一服吸いに来た際に、ぐうぜん屋上から飛び降りようとしていた美少女と出会ってしまいます。 

 屋上に侵入しタバコを吸いにいく反抗期らしい青春には、松本大洋先生の「青い春」を連想させますね。

 今にも飛び降りそうな彼女を見て動揺する主人公に、須磨寺さんは「こんにちは」と冷静に挨拶をします。ここで美少女ゲームらしい主人公なら「おいおいキミの国では夕暮れ時にもこんにちはなのかい?」なんて気の利いた返しをするところですが、彼は斜に構えたマイルドヤンキーなわりに、異様にパニックに弱いので、ひたすら怯えるだけです。 


 主人公が自分の異常な行動にビビっていると察した須磨寺さんは、すかさずポエムコンボで追い打ちを仕掛けます。最後に問いかけまで決めて完全に気持よくなっている状態。異常な行動に相手が臆する度に増長していく様子がリアル。 


主人公の返事も「!」のみと、常に無言であるメガテンやドラクエ系の主人公状態に。

 好きなだけポエムを吐き終わると、すぐさま飛び降りキャンセルをかます須磨寺さん。この不完全なメンヘラさが彼女の魅力です。序盤の彼女は「わたしは本物じゃないかもしれない」「わたしには感情なんてないから」と思春期らしいセリフが満載。 


 こうしてメンヘラ女とマイルドヤンキー男の奇妙な出会いが発生したのでした。


・恵美梨

 一旦話は変わりまして、このゲームには攻略不可な妹ヒロインである「恵美梨ちゃん」が存在します。

 一見、可愛らしいのですが、無条件で好感度マックスな甘々妹キャラどころか、思春期らしくガチ目に兄を嫌っている様子。ビジュアルノベルなのに。 

 色々あって主人公は子犬を家で飼うことになったものの、それを見た恵美梨ちゃんが斜に構えた兄らしくない行動に「食べる気なんだぁっ!」と軽い気持ちで皮肉るのですが……


 突然、主人公は「血を流して楽しみたいのかっ!」と発狂し始めます。正義側にたった瞬間に過激に相手を責め立てる様子は、さながらインターネット。兄妹仲が悪い云々の前に、この変貌っぷりはおかしい。 


 これには、いつも兄を小馬鹿にしている恵美梨ちゃんも泣き出してしまいますが、実の兄から「お前の方が、一度バラされて死ねっ!」とまで言われたら当然の反応です。このゲームには狂人しか登場しない。


・須磨寺雪緒と恵美梨

 そんな恵美梨ちゃんは須磨寺さんと知り合いだったりしまして、教室で一人ギターを弾いている須磨寺さんに恋しちゃっていたり。


 須磨寺さんルート以外では恵美梨ちゃんに同性愛者描写はないので、唐突にレズビアンである事が発覚しユーザーも困惑。


 こういった場合、通常なら主人公は同性愛に鈍感で気づかないまま進行しそうなものですが、本作の主人公は多少距離感が近い程度ですぐさま恵美梨の恋心を察する。その強引な決めつけっぷりには、主人公が百合厨である可能性すら感じさせます。

 この二人の関係は後に大きな問題へとつながっていき……。


・「セフレ」状態となる珍しいヒロイン

 偶然にも須磨寺さんと同じお店でバイトをすることになった主人公。

 バイト上がりに一緒に帰宅するのですが、二人きりになるやいなや、須磨寺さんがすかさずオリジナルポエムを披露。Skypeちゃんねるあたりによく出現するタイプ。


 そして、自殺願望がある事を言いふらされないよう、身体で口止めを申し出る須磨寺さん。あまりにも危険すぎる提案に、ユーザーも椅子からひっくり返ること必死。 

 しかし、これを受けての主人公の反応もおかしく、 


 

 「怖くて逃げる」なんて選択肢が出てきたりします。もう片方は本能に身を委ねすぎですし、「丁重に断って帰宅する」という考え方が一切ない。


 これは後者のほうが正解で、選択肢の通りそのままホテルへ直行する。

 因みに「怖くて逃げる」を選択すると「うわぁぁぁぁっ!」と奇声をあげわけもわからず逃げ出しゲームオーバーになります。これには自称感情がない須磨寺さんもさすがにビックリするのではないでしょうか。


 晴れて。シナリオゲーには珍しい「セフレ」関係になる二人。この後も須磨寺さんは事あるごとにセックスを迫り、性欲に依存した女っぷりをイヤというほど見せつける。


 身体だけの関係を重ね、確実に距離が近くなっていく二人。


 引き止めるとわかって柵を越える須磨寺さん。お試し行動を真に受け真摯に対応する主人公。この歪な関係が約20年前に美少女ゲームの媒体で描いたのは凄い。

 

 ある日、妹である恵美梨が想いを抑えきれず須磨寺さんの唇を無理やり奪うシーンを目撃。このCGはとても美しい画面。

 実の妹の暴走行為を目の前にして、「幻想的な世界にあってか~」と百合ポエムを展開する主人公。やはり彼は百合厨である可能性が高い。


 しかし、須磨寺さんはヘテロなので恵美梨の感情を否定します。目に涙を浮かべて逃げ出す恵美梨。


・感情の復活

 そんな日々を通していくうちに、メンヘラ女性に耐性のなかった主人公も、次第に須磨寺さんにも感情がある事に気づき始める。

 それを受けた須磨寺さんは、過去に弟同然に可愛がっていた飼い犬が亡くなった日から感情を失ったとつらい過去を説明。


 ちなみに、その過去に飼っていたデカイ犬は、彼女と違って本当に感情がなさそうな表情をしています。


 もう大切なモノを失ってしまう事が怖く、それで自分を好きだと迫った恵美梨ちゃんを、思わず拒絶してしまったと話していく須磨寺さん。

 「感情が戻った自分に生きる価値が無い」と、拗らせ方もエスカレート。「誰にも嫌われたくない、失いたくない」自分が美少女な事をいいことに、どんどん都合のいい発言を繰り出す。 

 共依存の末に感化されきった主人公は、お前が死ぬなら自分も生きる価値ないと言い出し「一緒に死のう」と提案。


 自殺決行日。夕暮れ時のいつもの屋上。


 最後だけは「恋人のように」セックスを行った後、離れないようリボンで手を繋いで一緒に飛び降りる二人。今まで淡白に肌だけを重ねていたセックスが、「死」を通して遂に感情も重なっていく。


 そして、幼かったメンヘラ女とマイルドヤンキーのカップルは、飛び降り自殺という非日常へ飛び込むことで、思春期の人生観への葛藤に答えを見出す。なんと素晴らしく、美しい光景なんでしょうか。


 本作には前述した通り、年頃らしい拗らせ方や間違いをするヒロインたちが多数登場します。SNSがなかった時代に生まれた彼女たちの承認欲求と心の闇に触れていく「天使のいない12月」という唯一無二の名作。中でも自殺願望という、重く儚くそして何より拙すぎる少女の内面を描いた須磨寺雪緒ルートは、何年経とうとも色褪せない繊細な美しさに包まれているのです。


記事一覧へ戻る

コメント (0)

コメントを残す

0/1000

まだコメントはありません。最初のコメントを投稿してください!