※2025年8月16日に投稿された記事の再投稿です。
カナダへやってきました。バンクーバー。
街中にそびえるA &Wなどアメリカンな光景を見かけると、沖縄に帰ったような心地になり、まるで帰郷です。

バンクーバーの中心地は極めて治安がよく、ショッピングセンター、スーパーマーケット、カフェ、快適な施設がひととおり揃っており、生活に関して困ることはほぼありません。もちろん日本の4,5倍する物価に目を瞑れば、ですが。
僕の仕事の現状は喫茶店にさえ座れて、こうしてキーボードをカタカタ文章が打てるならどこだってよく、過ごしやすいバンクーバーを半分旅行しながら一人原稿を進める日々は人間関係を最小限に縮めたちょうど良いリフレッシュです。
そろそろアニメの収録が始まり、毎週スタジオに通うので、このように世界を回る期間も一旦終わりを迎えつつありますが。
……が。そもそも、僕はそんな平穏を求めて飛行機に乗ることもなく。
今後の作品・活動のために、どうしてもこの目で見ておきたかった光景がある。強い光の裏には深い闇が広がり、カナダもまた、オシャレな中心街から外れた通りに、社会から忘れられた人たちの世界がある。

自分が足を踏み入れた先は、当然どのガイドブックでも「最も治安が悪いので行かないほうがいい」と紹介されている。あたり一帯、元在住者から見ても危険性が高いので物見遊山で近づくと安全の保証はない。

海沿い。
さて、視点をEast Hastings Streetへ戻しましょう。

繁華街を抜けて10分ほど。この付近にある警察署を境に、治安は一変する。
このようにきちんと境目があることからも、彼ら薬物中毒者ができるだけ一般社会に悪影響を与えたくない、目立ちたいわけでもないことがわかる。
この手前のガスタウンは気楽に大麻の匂いを嗅ぎながら踊り狂う、ちょうど中間の治安をしている街で、「治安のいい中心街→ダンスやアルコールを楽しむ繁華街→薬物中毒者たちが横たわるダウンタウン」と、綺麗に棲み分けがなされていることは興味深い。中間にあたるガスタウンもまた見応えあるスポットですが、今回は主題がブレるので割愛。

街の賑わいとは裏腹に、現地民以外はめったに通らず、お店のほとんども閉まっている。壁中に落書きが溢れ、点在するテントの中には若者も混じった家族たちが夜空から逃げ出し、なにかを吸引している。それに、今夜は雨。
みな、驚くほどに薬物を吸引し続けていた。
すっかり夜だからかもしれない。月の光を正気で浴びることに耐えきれない。East Hastings Streetの住民たちは、たった十数分先にある街の喧騒からはみ出した人間たちだ。

万が一のためお店は鉄格子で厳重にガードされている。それでも買い物をすること自体は可能であることが優しさか。こういう時、僕は必ずお菓子を購入する。話しかけてくれた人たちにお礼の気持ちを示すため。甘いハイチュウを買おうね。

街の人たちは、だいたい腰がぐいっと曲がってゾンビのような姿に。
俗に言うフェンタニルゾンビだ。あまりに速攻で脳の機能を奪うので、こうして路上で前屈みになって満足に歩くことすら困難に。身体をかけめぐる薬物が一時的に痛みを和らげるが、効果が切れると強烈な離脱症状に襲われ、再びフェンタニルを注入して誤魔化し、腰が曲がっていく。
現代医学がたどり着いた悪魔の薬を流通させることで治安を傾かせる、まるで現代のアヘン戦争の一端がこの場所で起きている。僕は、あんな妙なゲームを作ってしまった原作者として、一時的な快楽で醜い現実を忘れようとする気持ちが痛いほどわかる者として、この路を間近で見ておきたかった。

街中を歩き回っていると、強烈な副流煙だけでクラクラと嫌な汗が噴き出る。頭が痛い。
調べると、フェンタニルは気化するとあまり効果がないらしいが、どのみち覚醒剤、マリファナ、コカイン、あらゆるドラッグが蔓延しており、さらにはどんな場所でも必ず煙に包まれているため、歩いているとどうしても肺に溜まっていく。僕なんかは病気で鼻呼吸ができずに口を開いているため、すべてのドラッグの煙を自動的に吸い込む最悪のカービィ状態である。もはや、どの薬物の影響でくらくらしているのかすらわからない。
が、ある意味では功を奏した。
よろよろと一人、怪しい夜道を歩き回る東洋人。
僕もまた傍目から見てまともには思えない。こうなると街の人たちは受け入れの体制をとってくれる。まあ、「ドラッグ売ろうか?」と売人気質の者も少なくないけれど。それだけではなく、彼らは上記写真のように溜まって吸引をする。
だいたいグループの一人二人、耐えきれずに倒れ込んでしまうが、それでも周囲に誰かがいるので死にはしないでしょう。後述するけれども、瀕死の患者のために応急処置が行われる施設もある。
要するに、薬物中毒者同士では細かいこと抜きに助け合って生きているのですね。
みんなダメになっていいじゃない。どこにだって寝転がって許される空気は、むしろ何より「本来の人間の在り方」を感じて安心します。ヒッピー気質極まれり。好きなんですね、人間が。
彼らのシャツはNARUTOやドラゴンボールのキャラクターが印刷されている。アニメを糸口に「日本から来た!」と語ると、背中に刻まれたカカシ先生のイラストを笑顔で自慢してくれる。お近づきの印にハイチュウを渡す。路上では、トリップした男性が一人で不器用なダンスを踊っていた。彼らはヘイ!とダンサーを呼び寄せ、輪の中へ加えた。元から知り合いなのかはわからないけれども、こうして薬物で苦痛を忘れながらストリートの皆で夜を明かしているのでしょう。
暴力的な様子はまったくない。もちろんトリップの真っ最中で奇怪な動きを繰り返しているので、口が裂けても安全とは言えないが。不用意に刺激さえしなければヤク中だって通行人に殴りかかりはしない。たぶん……。覚醒剤の末期ではあり得ることだろうけれども、フェンタニルの場合は腰が曲がっているので、そもそも横切っても目が合わない。彼らは月を見上げない。

この一帯でなく、中心街でも深夜はホームレスが屋根下を陣取る。
彼らは町中のゴミ箱からアルミ缶を集めて掃除をしてくれる。時に尻を曝け出しながら。物価が日本の4,5倍もする街で、いちど生活を失ったら立ち直すなんて到底不可能な葛藤は想像に難しくない。
夜の街を歩き、繁華街から弾き出され、たどり着いた先で安いドラッグに溺れて現実を忘れる。「路上の薬物中毒者」と書くと、日本的な感覚では反社会的に思えるものの、果たして彼らは社会に反しているのだろうか。社会に馴染めずにはみ出し、その上で中心街からは「居ない」者として隠される。ガイドブックには「治安が悪いので近づかないように」の一文のみで締められる。路上生活の寒さと痛みを忘れるため、ドラッグに逃げて追い込まれてしまうことを、ただ「罪」として扱うのか。
僕は、彼らも同じ人間だと思う。でなければ、こんな寒空の中で呼び合って互助することもないでしょう。East Hastings Streetにも、薬物中毒者たちの秩序と優しさは確実に存在する。僕は、彼らが何かを話してくれるのならば、それは絶対に聞いてみようと思う。これからも。海外を回るたび、みんな嬉しそうに話しかけてくれる。一人でふらふら歩く東洋人なんて怪しい者なのに。そんな小さなことは、気にもせず。だから僕も気にしないことにした。
まあ、問答無用でパスポートを奪おうと殴りかかってくるホームレスも実在するわけで。結局のところ全ては自己責任で、どんな場所でも安全なんてないんですけどね。日本はとても治安良好な国です。わざわざ危険に飛び込むことはありません。

さて。
こんな通りといっても、政府だって無闇に放置しているわけでもない。
たしかに、そう簡単にはどうにもならない問題だけれども、たとえば各所に、このような急患を隔離するスペースを用意している。もし、あまりのバッドトリップや過剰摂取で瀕死になった場合、政府の人たちがこちらのベッドで適切な処置を行う手筈。
他にも、ハードな薬物依存から抜け出すため、ゆっくりとソフトドラッグに切り替えるための施設まで。フェンタニルに比べたら一旦はコカインやマリファナでもいい。平和な日本ではなかなか想像つかない福祉が実在します。

路上生活者たちに飼われているワンちゃん。餌自体は繁華街からいくらでも持って来れるからか、意外と元気。僕なんかでは根本からどうしようもできないけれども、人や動物は逞しく生きている。

こうしたフェンタニルの汚染を考えると、マリファナが合法で存在することも、さもありなん。それが正しいかは誰にもわからないが、「国」というスケールがあり、それは各国それぞれの倫理とルールがある。
それにしたって、副流煙で頭が痛い!

マジックマッシュルームのお店は、なんだかオシャレ。僕は幻覚系にしか興味がないから、嗜むとしたらこっちだね。ゲームライターの赤野さんへDMで聞いたら、店内に設置されているアーケード筐体はATARIのセンチピードだ。全く無関係なのにサイケデリックにも思えるチョイスはさすが。

めちゃくちゃお金をせびられたので、せめてハイチュウをあげようとしたけれども、タダで言うこと聞くのも癪だなと写真をお願いしたら思いの外ノリノリだったお爺さん。こうしてバンクーバーの夜は更ける。

深夜のカフェを勝手にチェス大会の会場にしている老人たち。
将来、これくらい楽しく生きていきたいものです。
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