幼馴染キャラクターの献身 長森瑞佳ルートの唯一性

幼馴染キャラクターの献身 長森瑞佳ルートの唯一性

書いた人 : nyalra nyalra

 初代ToHeartの魅力の大部分に、毎朝必ず起こしにやってくる幼馴染・あかりの存在があります。

 幼馴染。

 子供の頃からいっしょ。

 ただそれだけで、彼女は毎日あなたを迎えに来る。放課後はあなたを待つ。

 クラス替えの日は、あなたと同じ教室になることを心から願い、席替えがあれば教室でもあなたの傍に居られる幸せを噛みしめる。幼馴染は、どこまでいってもキミの隣にいる。

 18時。すっかり授業後の教室で目が醒めてしまった時は、そっと寝顔を覗くあかりがいる。

 彼女の幸福はカップルを越えて、ただあなたの世話を焼き続けることであり、たとえ他のヒロインを攻略中であろうとも、あかりは毎朝迎えにやってくる。クラスでどれだけ噂になろうと、思春期の男子なりにぶっきらぼうな態度で扱われようとも。

 あかり以外のルートに入ると、ヒロインたちが「あかりちゃんはあなたにとってなんなの?」と尋ねてしまうくらいに。ただ、そばにいる。

 こんなにかけがえのない「幼馴染キャラクター」属性は、だんだんと美少女ゲーム・ラノベアニメではメインとして扱われなくなっていく。途中で出会う刺激的な転校生・異世界人ヒロインたちの当て馬になる。その方が描きやすく、「ずっと隣の家の少女」を描くには、あかりという完成形が大きすぎた。

 以降、幼馴染がメインの場合は「敢えて」幼馴染がメインヒロインであることを前面に押し出されるほど、希少なこととなっていく。

 そんな幼馴染キャラクターの初期として、Keyの前身であるTacticsからリリースされた『ONE』の長森瑞佳ルートのことは特筆させていただきたい。

 例に漏れず、彼女も毎朝迎えにやってくる。

 この頃の、少女漫画然としたいたる絵の可愛らしいこと。茶色く、くりっとした瞳が彼女のいたいけな少女性を際立たせる。それは幼馴染を越えて母性すら錯覚させるような。

 彼女のルートは、麻枝准が担当しています。

 そして、非常に特異な構造をしていおり、僕はだーまえ原点にして最高傑作と感じております。一番好きなのは久弥直樹の里村茜ルートですけどね。

 長森ルートの主人公は、Key作品特有のイタズラで皮肉屋な主人公とのコミュニーケーションであるものの、まだ良い意味でエロゲーが未成熟であった時代。ONEの主人公によるイタズラ心は常軌を逸しており、だからこそ「幼馴染」である長森瑞佳の健気さが光る。もはや狂気と呼べるほどの。

 長森瑞佳ルートは、「素直になれない思春期男子」が丁寧に描かれる。というか、ここまで書いてしまったことが凄まじい。

 せっかくルートに突入したというのに、主人公はやっぱり幼馴染で世話焼きの彼女へ率直な好意を向けられない。それどころか、照れも悪意も膨らみ、付き合う前よりも酷い言動を繰り返すことが正解となる。たとえば、上記の選択肢においてプレイヤーは下の方を選ばされる。苦しい。長森は困惑する。プレイヤーの心は苛まれる。しかし、同時に僕達は知っている。人間は、時に相手の愛情を試す。

 なんと、長森瑞佳ルートでは、主人公がひたすらに「試し行動」を起こすのだ。ヒロイン側でなく、主人公が。美少女ゲーム業界ではめったに見ない禁忌に思えるが、これはきっと現実の恋愛でも怒り得ることだ。人は弱い。相手がどこまで自分を本気で愛しているか、確かめたい。その猜疑心は例え幼馴染相手であろうと、男や女は関係なく発生する感情。

 「独立」の焦りも混じる。

 幼馴染が勝手に焼いてくることと、彼女が世話を焼き続けて優位な立場にいることは、プライド高き思春期ボーイにとっては大きく違う。いつまでも女の言うことをへこへこ聞いて下にならないよう、彼は残酷なまでに純真な幼馴染を突き放した。

 それは、もはや「コイツはなにがあってもオレが好きなんだ」という優越感と加虐心にすら繋がって。


 そして、このルートでの主人公は、あまりに許されない過ちを犯す。

 クリスマスの日。

 暗い教室で長森を待たせ、わけもわからず夜の学校に佇む長森を、クラスメイトの男子たちに襲わせたのだ。「あんな女どうでもいいよ」と。引くに引けなくなった状況が、彼の心を悪魔へと売り渡した。

 このシーンでプレイヤーの精神も引き裂かれる。ここでは、後のKey作品のような奇跡も暖かさもなく、取り返しのつかない思春期ゆえの罪と罰だけがある。

 が、このルートで描きたかったことは、そんなバッドエンドではない。

 過ちを越えた幼馴染の「献身」。聖母を想起させるような深い愛情にある。僕は、このシーンになると何度だって泣いてしまう。他のゲームでは味わえない、唯一無二の「愛」があった。

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 後悔と動揺で激しく焦燥する主人公に対し、長森は深呼吸を促し、落ち着いて笑顔を見せる。彼女は、何より先に幼馴染であるあなたが悲しまないで居て欲しい。自身の傷よりも、隣りにいる大切な人の笑顔が優先される。真に強い人間とはなにか、愛とは「許し」ではないか。

 アンバランスな10代の男女は、過酷なすれ違いを経て、奇跡でも魔法でもない、小さな純真へ辿り着いた。

 僕は、ONEが好きだ。

 このルートで描かれた幼馴染像。どこまでいっても「許してしまう」母性と血の絆よりも深い在り方。長森瑞佳のシナリオは唯一無二だ。

 こんな悲しい夜空の下だって、泣きながら笑える二人が居るのだから、えいえんはあるんじゃないかと勘違いしてしまえるから。

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